兄弟間で起こりやすい相続争い(と、その予防策)
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兄弟間で起こりやすい相続争い(と、その予防策)
私たち司法書士は、度々、遺産相続手続きの依頼を受け、遺産分割協議の場に立ち会わせていただくことがあります。
ほとんどのケースでは揉めごとなくスムーズに手続きを進行することができますが、稀に相続人同士が互いに感情的になり、話し合いがまとまらずに争族となってしまうことがあります。
そして、そのほとんどが兄弟間での相続です。
父が亡くなったケースでお話しをします。
遺された母と子との間で争いが起こることは滅多にありません。争いが起きるとき、そのほとんどが子供が複数人いる場合に起こります。
子供が複数人いる場合に、その法定相続分は均等です。例えば、配偶者が無く、相続人が子供3人であれば3分の1ずつ相続する権利があります。
◎では、法律で相続分は均等だと定められているのに、なぜ兄弟間で争い(トラブル)が起こりやすいのでしょうか?
以下に、兄弟間で起こりがちな相続争いの例とそれに対する予防策を挙げていきます。
①長男がすべての遺産を相続すると主張する・・
現在の法律(民法)では家督制度が廃止されており、長男がすべての遺産を相続すべきだという主張は通りません。
②遺産全体が把握できない・・
両親と同居していた長男と、別居していた次男がいるとします。
両親の死後、長男が「次男が期待するほどの相続財産はないよ。」と言います。それに対し次男は「長男が両親の財産を隠匿している。」と考え、争いに発展することがあります。
⇒⇒(予防策)両親が生前に財産目録を作成してもらうようにしてください。そして財産目録を定期的に見直し、兄弟間で内容を把握しておくことが大切です。
③生前、親の介護をしていたので、「自分は多くの遺産を相続する権利がある」と主張する・・
両親と同居していた長男と、別居していた次男がいるとします。
長男が「自分は生前、親の介護をしていたのだから、『寄与分』が認められ、多くの遺産を相続する権利があるはずだ」と主張するのに対し、次男がそれを認めずに争うことがあります。
⇒⇒(予防策)親の生前から、自分が親に対して、どのような気持ちで、どのようなことをしているか、それがどれだけの負担になっているかを次男に伝えておきましょう。
そして、「長男に対する感謝の気持ちや親自身が望む遺産分割の方法を」親に『遺言書』として遺してもらうことも一つの方法です。
④財産が不動産しかない・・
長男が不動産を取得したいと主張しているが、次男が不公平だと認めないケース。
長男が不動産を取得し、次男に代償金を支払うと約束するが、次男が代償金額が少ないと主張するケース。
長男は実家の土地建物を残しておきたいが、次男は売却したいというケース。
⇒⇒(予防策)両親に「遺言書」を遺してもらいましょう。
また、両親に生命保険を掛け、受取人を長男にしてもらうことにより、その保険金で次男に代償金を支払うことが可能になり、これも一つの予防策と言えます。
※生命保険金は相続財産ではなく、長男個人の財産になります。
⑤相続人の1人が多額の生前贈与を受けていた(特別受益)・・
長男が親から「学校の入学資金や留学資金、結婚資金などの理由で」高額な生前贈与を受けていて、次男が「自分はまったく贈与を受けていないのだから、遺産を多くもらう権利がある」とし、争いに発展するケースがあります。『特別受益』が問題となるケースです。
⇒⇒(予防策)親に贈与に至った経緯や理由を記した「生前贈与契約書」を書いてもらってください。また、親自身の想いを綴った「遺言書」を遺してもらうことも一つの予防策になります。
⑥兄弟の配偶者が口を出してきた・・
父が亡くなり、相続人が長男と次男の2人の場合でお話しします。
次男自身は、「父の生前、長男が介護をしてくれていたのだから、自分は何もいらない」と考えていても、次男の妻が「もらえるものはもらうべきよ!」と言って口を出してくることがあります。これは結構あります。
長男からすれば部外者であるはずの弟の嫁から口出しされて面白いはずがなく、争いが深く発展することがあります。
⇒⇒(予防策)両親の生前から、次男の妻も交え、将来の遺産分割について協議しておきましょう。
また、両親に自分の想いを綴った「遺言書」を遺してもらうことも良いでしょう。
⑦音信不通だった兄弟や知らなかった兄弟が現れた・・
若くして実家を飛び出し、しばらく音信不通であった次男が、親の死後、突然現れ、「自分にも遺産をよこせ!」と主張してくるケースがあります。長男としては、親不孝をしてきた次男には遺産を譲りたくないと考えることもあるでしょう。
また、親の死後、相続の手続きをする中で、亡親の出生~死亡時迄の戸籍(除籍)謄本を集め、相続人が誰であるかを調べる必要がありますが、稀に「知らなかった兄弟」が見つかることがあります。いわゆる腹違いの兄弟などです。親が再婚だったことを知らなかった場合には、突然のことで驚くでしょう。
そして腹違いの兄弟にも「均等に」相続分がありますので、自分の相続分を主張してきた場合には、争いに発展することが少なくありません。
⇒⇒(予防策)両親に「遺言書」を遺してもらいましょう。
※上記の予防策を講じていたことにより遺産をもらえなかった兄弟も『遺留分』で守られており、一定の相続分を主張する権利が認められています。
この「遺留分」については、後日改めてコラムにしたいと思います。
◎最後に・・
現在、兄弟間の仲が良いと思っていても、将来いざ遺産相続の話になると互いの欲が勝ち、争続に発展してしまうこともあります。
そうならないように、親の生前から、互いの配偶者も入れて意思疎通を円滑にしておき、必要ならば両親に遺言書を遺してもらうようにしてください。
相続についてお悩みの方やご質問がある方は、まずはアット.法務オフィスにお問い合わせください。
著者
稲葉 尚士(いなば たかし)
神奈川県司法書士会所属
登録番号:第1111号
簡易裁判所訴訟代理権
認定番号:第302030号
担当分野:相続業務全般、債務整理